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2018年5月

2018年5月 4日 (金)

早春の京都日帰りひとり旅――若冲訪ねて千三百里

昨秋、次女のショコラティエめぐりに付き合ってひさびさに訪れた京都(実はチョコレート専門店激戦区)。往復はがきによる完全予約制の世界遺産、西芳寺(苔寺)も訪問、故スティーブ・ジョブズも愛した120種類の苔が織り成す緑の世界も堪能してきました。

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唯一心残りだったのは細見美術館。こぢんまりとした私立美術館ながら江戸中期に京都で活躍した絵師、伊藤若冲(いとう・じゃくちゅう 1716-1800)の作品を19点も所蔵。織物で財を成した細見家三代の数千点に及ぶ日本美術コレクションを、季節ごとの企画展の形で数十点ずつ公開しています。

小さな美術館で常設展示はなく、昨秋訪れたときに展示されていた若冲作品は1点のみ。その後、2018年1月3日~2月25日に開催される『開館20周年記念展Ⅰ 細見コレクションの江戸絵画 はじまりは、伊藤若冲』で同館所蔵の若冲作品が一挙公開されることを知りました。

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2018年の年明けは寒波続き。その合間を縫ってなんとか日帰りで行けないか。どうせ行くのなら美術館だけでなく、若冲ゆかりの地――代表作『動植綵絵(どうしょくさいえ)』を寄進した相国寺(しょうこくじ)/青物(野菜)問屋の長男として生まれ育った錦(にしき)市場/伊藤家の菩提寺の宝蔵寺(ほうぞうじ)/晩年を門前で暮らし、お墓もある石峰寺(せきほうじ)――もめぐりたい。

2月8日朝、澄みきった青空の下、京都到着。まず、JR奈良線で南下、稲荷駅近くにある「石峰寺」へ。駅前の人気観光スポット、伏見稲荷大社に向かう大勢の人々を横目に、住宅街の奥の高台まで歩きます。1788年の天明の大火で家も錦市場の店も焼け出された若冲は、1791年頃から10年間、85歳で亡くなるまで石峰寺の門前に庵を結び、画業に励みました。

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誰もいない境内で、若冲のお墓を拝んでから、彼が下絵を描いて石工たちに彫らせたという裏山の五百羅漢像を観て回りました。緻密で技巧を凝らした彩色画とは異なり、風雨に晒されて丸みを帯びた石像群は素朴で、子どもの落書きのように自由で愛らしい。以前は撮影可能だったのですが、観光客が柵を乗り越えたり、石像をいじったりしたため、撮影禁止に(下の写真は石峰寺のパンフレットから)。

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石峰寺から深草駅に出て、クラシックな京阪電車で祇園四条駅へ。予約しておいた「彩席(さいせき)ちもと」(創業300年の老舗料亭が開いたカウンター割烹)を訪れます。

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鼓(つづみ)を模した朱塗りの器に盛られた「如月の彩点心(いろどりてんしん)」は、鯛細作り山かけ、畑菜と油揚のお浸し、鰆幽庵焼、小芋旨煮、梅麩含め煮、ミニトマトワイン煮、南京旨煮、蕗漬け煮、生湯葉含め煮、菜花辛し和え、豆くわい含め煮、絹さや漬け煮、花豆甘露煮、鴨ロース燻製、鮭絹田巻、わかさぎ香り揚げ、蕗のとう天婦羅、パプリカ素揚げと色鮮やか。お店の名物の玉子宝楽(茶碗蒸し味の和風スフレ)、鯛ご飯、赤だし、香の物、みかん羹がセットになっていて、早春の京都を目と舌で味わいました。

食後は錦市場ヘ。市場の細長くにぎやかな通り(錦小路通)は観光客であふれ、すれ違うのも大変なほどのにぎわい。若冲の生家の青物問屋「桝源(ますげん)」の跡もありました。2016 年の若冲生誕300年以来、通りには若冲の名作の垂れ幕がずらりと下がっています。

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市場から伊藤家の菩提寺「宝蔵寺」までは徒歩8分。毎年2月上旬の数日間、寺宝展が開かれ、普段は非公開の若冲(『髑髏図(どくろず)』『竹に雄鶏図(たけにゆうけいず)』)や弟の伊藤白歳(いとう・はくさい 1719-1792)の作品(『羅漢図(らかんず)』『南瓜雄鶏図(なんきんゆうけいず)』)などが公開されます。

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宝蔵寺の後は、念願の細見美術館へ。作品1点1点の写真を載せられないのが残念ですが、以下のサイトで13作品を細部まで紹介しています。
http://www.kyoto-artculture.com/works/

私が好きなのは、ヘチマと11匹の虫を描き込んだ『糸瓜群虫図(へちまぐんちゅうず)』
http://www.kyoto-artculture.com/works/detail/01/

画面の中央を白いまま残し、左上と右下にだけ描いた『鼠婚礼図(ねずみこんれいず)』
http://www.kyoto-artculture.com/works/detail/08/

彩色画と水墨画ではまったく雰囲気が異なる若冲の、饒舌だったり、素っ気なかったり、大胆だったり、天衣無縫だったり、ユーモラスだったりする表現を愉しみました。

新幹線の時間が迫ってきたので、大急ぎで「相国寺」まで移動。若冲は30代から50代にかけて相国寺の住職、大典禅師(だいてんぜんじ 1719-1801)と深い親交があり、その代表作『動植綵絵』30幅はもともと『釈迦三尊像』3幅とともに相国寺に寄進されたものでした(現在は『動植綵絵』は30幅とも宮内庁三の丸尚蔵館の所蔵)。

相国寺の承天閣(じょうてんかく)美術館に常設展示されている若冲の2作品(「鹿苑寺大書院障壁画」のうち『月夜芭蕉図(げつやばしょうず)』と『葡萄小禽図(ぶどうしょうきんず)』)のみ観て京都駅まで戻りました。

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一気に20数点の若冲作品を観ることができた贅沢な一日。ひとり旅ゆえに誰にも気兼ねすることなく、徹頭徹尾好きなものを追い求めることができました。クセになりそうです。

【追記】 今回観て回った若冲作品は水墨画中心の少々マニアックな作品ばかり。極彩色と精密な筆致で知られる最高傑作『動植綵絵』30幅と『釈迦三尊像』3幅は、以下のサイトで観られます。(2012年にアメリカ・ワシントンのナショナル・ギャラリーで開催された展覧会『Colorful Realm of Living Beings Japanese Bird-and-Flower Paintings by Itō Jakuchū (1716–1800)』より)

https://www.youtube.com/watch?v=aKRmYi1StoI

また、この秋(2018年9月3日~10月7日)には上記33幅がフランスのパリ市立プティ・パレ美術館(Petit Palais)の『若冲 ―〈動植綵絵〉を中心に』展(Jakuchu: Le royaume coloré des êtres vivants)で公開されます。ヨーロッパで若冲の作品がまとまって紹介されるのは今回が初めてだそうです。

コーディネーター 青山art

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