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2017年7月 4日 (火)

英訳コーディネーター修行

13年前、翻訳や編集の知識などほとんどないままこの世界に飛び込みました。最初の数カ月、もしかしたら1年くらいは、自分が何をすればいいのか、どの過程ではどういうことが起きえるのかわからないまま、ただひたすらにスケジュールを立て(読みが甘いため、往々にして崩れる)、毎日届くリーディングレジュメや翻訳原稿を読みまくっていました。

学校の作文では句点を打ってから閉じかっこだったのに、逆だと言われたり、はたまた閉じかっこのあとは句点不要の案件もあったり。リーダーやダッシュは2字分だし、?や!のあとは1字アケなければいけない……。今となっては呼吸レベルで当たり前のことを一つ一つ覚え、編集者さんの赤やフィードバックから必死に盗み取り、10年が経ち、300冊の担当書籍が世に出る頃には、「何が来たってどうにかできる」と思えるくらいになっていました。

ところがその頃、私はまたもやド新人に戻ってしまいました。内閣府主導で日本の書籍を英訳するプロジェクトが始まり、弊社にもお声がけいただいたのです。

和訳であれば、いただいた原稿を拝見していると、反射のようにチェック機能が作動しますが、英訳ではそうはいきません。久しぶりに「届いた原稿を前に何をどうすべきなのかわからない」状態に放り込まれました。

このプロジェクトでは、私のもとに届く原稿は、経験豊富な訳者さん、2人のチェッカーさん、さらには編集者さんの手が入ったものなので、私の出る幕などなし……。最初のうちはそう思っていました。が、担当させていただいたタイトルを仕上げていく段階でさまざまな要修正ポイントが見つかり、何度も血の気が引き、呆然としました。

英語書籍には、正しいパンクチュエーション、字下げのルール、参考文献の書き方、註の入れ方など、日本語書籍よりはるかに細かく、膨大な決まりがあり、さらには英語と米語でルールが違ったりもします。そして、日本語からの英訳の場合、一般的な英語書籍のルールではカバーしきれないものも出てきますので、タイトルごとにその特性を踏まえて、どのルールを採用するのか、しないのか、例外にはどう対応するのかを、最初の段階である程度決めておかないと、完成したはずの原稿全文を頭からお尻まで読み直し、整える羽目になります。

例えばDavidをカタカナ表記にする場合、さまざまなパターンが考えられますが、それと同様、日本語をローマ字表記にする方法もいろいろあります。例えば「おおの」さん。一番シンプルに書けばOno(「おの」さんと見分けがつかないという難点あり)、マクロンを使うならŌno、さらにはOhno、Oonoと書くこともできます。「しんいちろう」さんも、ShinichiroでOKとするケースと、Shin'ichiroにしなければいけないケースがあります。「新聞」も、ShinbunなのかShimbunなのか……(私は後者の方がなじみがあるのですが、最近は前者の書き方がメジャーになってきているそうです)。人名の書き方も、英文の中では西洋式に名・姓にするものだと信じて疑っていなかったのですが、「源頼朝」の「の」はどうする? と言われてフリーズ。近頃、特に学術書では、その人物の出身国での表記順を採用するというのが主流になっていることを知りました。

そして、一番頭がこんがらがるのがカタカナ語のローマ字表記です。

日本語書籍のタイトルなどにカタカナ語が使われている場合、それは原語のスペルではなくローマ字にしなければいけないのですが、aidenteitei(aidentiti)やpaatonaashippu(patonashippu)など、一見しただけでは読み取れず、自分でローマ字にした場合はそれが合っているのかも自信がなく、じーーーっと1文字ずつ追ってしまいます。英語読者に対して、果たしてこんな表記が必要なのだろうか、と思ってしまいますが、ローマ字の中に英語のスペルが混ざっていると、それはそれで混乱するのかもしれません。反対に、SuhartoとSuharutoでは違いが微妙すぎて、先日、本当に入稿ギリギリでローマ字表記にはuを1つ足さなければいけないことに気づき、大慌てで修正しました。

そんな英訳格闘生活も4年目を迎え、最初に押さえておくべきこと、各段階で注意すべきこともだいぶ見えてきましたが、和訳に比べると準備力・対応力ともにまだまだです。1冊ずつ勉強させていただきながら、いつか和訳と同じレベルで英訳もコーディネートできるように、頑張っていこうと思います。

コーディネーター中原wave

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